つなワタリ@捨て身の「プロ無謀家」(@27watari)です。「UPLINK FACTORY」をメインとし、映画配給をはじめ文化の発信基地で知られる有限会社アップリンクの取締役・浅井隆氏が元従業員からパワーハラスメントで訴えられました。
元従業員が被害者の会を立ち上げて会見を開いたのが2020年6月16日。その後、浅井氏は公式サイトで謝罪文を掲載しました。
【目次】本記事の内容
謝罪文の実例紹介
◯謝罪の内容・タイトル
謝罪と今後の対応について
◯謝罪した人・組織など
浅井隆氏
有限会社アップリンク 取締役社長
◯発表日時
2020年6月19日(金)
◯謝罪文の内容
まずは画像から紹介します。これはアップリンクの公式サイトに掲載されました。
これです。
かなりの長文ですが、念のために文章にも残しておきます。
2020年6月19日 更新
謝罪と今後の対応について
まずは、今回提訴した元従業員5名の方、そして、そのほかの元従業員、現在勤務している従業員の皆さんに対して、私のこれまでの言動に過ちがあったことを認め、傷つけたことを深く謝罪致します。また、これまでアップリンクを支えて下さったお客様、関係者の皆様にもお詫び申し上げます。コロナ禍で映画館の営業ができなかった時も、配信やチケットを購入してくださったり、寄付してくださったり、温かいお言葉をかけていただきました。そうしたお気持ちを裏切るような行動を深く反省し、今後決して繰り返さないよう、努めて参ります。
33年前の1987年にアップリンク渋谷を自分1人で設立し、ここ2年で吉祥寺、京都と映画館をオープンし、現在は100人を超える従業員が在籍する会社になりました。しかし、会社の規模が大きくなっても自分のみをトップにする体制での経営、運営を続けており、「会社とはこうあるべきだ」「次のプロジェクトはこうだ」と、自分の考える方針を押し進め、とにかくアップリンクが生き残るために時代の変化に対応することに全精力をあげてきました。
当然のことですが、アップリンクを築いたのは自分一人の力でなく、これまで関わってきたスタッフ、さらに関係者、そして応援してくださったお客さまによって今まで会社が継続して活動を続けてこられました。
この2年間の急成長下、100人を超える従業員を擁する会社として、規模に応じた組織づくりを行なうことができていませんでした。特にマネージメントの体制が会社の規模にふさわしく行えず、スタッフ1人1人に過大な負荷がかかる状況が常態化していました。アップリンク吉祥寺、京都のオープン時は、誰もが未経験の大きなプロジェクトであったにも関わらず、十分な研修もできずスタッフの負担は大きなものでした。研修を十分にせず、責任の重い仕事を任せ、スタッフに過度のプレッシャーを与えること自体がハラスメントにあたるという認識が自分に欠けていました。
経営体制を変える必要があるのは自覚していました。組織図を作り、新人スタッフの研修を進めていたものの、ベテランのスタッフも少人数で多くの実務をこなしていたため、管理職としての仕事をすることは無理な状況だったと思います。社長として、無理なスケジュールや采配を行っていたことは明らかです。
また、従業員への態度に対しても、これまでにスタッフから何度も「これはハラスメントである」という指摘を受け、是正するよう言われてきました。そのたびに理解したつもりになっていましたが、理解できていませんでした。映画の配給宣伝、映画館の運営にあたり、毎日が本番で常にベストを尽くすという自分の考えがあり、それをスタッフにもして欲しいと思い、強いていました。そのため、その自分が考えるベストから遠いと感じた場合は、注意をしてきました。その注意が叱責となることも度々ありました。
一番の自分自身の問題は、スタッフに対して人としての尊厳を傷つけていることに自覚がなかったことです。よい仕事をするには注意して直していくことが必要なのだ、その注意は、理不尽ではないと思っていました。力によって仕事をやらせようとする行為、それこそがパワー・ハラスメントであるという認識が欠けていました。自分自身のマネージメント能力の低さに他なりません。
自分の経営者としての力不足、叱責によってスタッフを傷つけたこと、無理な采配で過度な負担をかけてきたことを、深く反省致します。
通常の会社であれば、自分が退くことで会社を刷新させることができるのかもしれませんが、アップリンクは自分一人で始めた会社で、全ての経済的リスクを負ってきました。現在も多額の負債があり、その連帯保証人は自分一人です。そういった中で誰かに社長を務めてもらうことは難しい状況です。
私自身が会社を退くということは、アップリンクがなくなり現従業員を路頭に迷わすことになります。自分自身と会社を変革し、ハラスメントのない会社、そして今まで以上に映画という文化、映画産業において、有意義かつ独自性の高い活動をしていく会社にする所存です。
その上で、今後の自分自身、会社をどう変えていくかについて、次のように考えています。
1)外部委員会の設置
社外の専門機関に、現在の社内の課題に関して調査を依頼します。徹底的に調査し現状を把握し、問題がある部分を改善し、コンプライアンスの徹底を致します。
2)通報制度・窓口の設置
今後のハラスメント防止対策として外部への通報制度の整備を行います。
3)社内体制の改革・スタッフとの定期的な協議
社内の組織体制整備、とくにマネージメントの体制を整えます。また、スタッフとの定期的な協議を行います。
4)取締役会の設置
現在、有限会社アップリンクの取締役は自分1名ですが、今後は、社内外含め複数の取締役で運営を行うべく準備中です。
5)セミナー、カウンセリングへの参加
叱責、暴言などは、感情のコントロールがきかないことも要因だと思います。アンガーマネジメントなどのカウンセリングを受け、自身の問題解決に臨みます。また、私自身はもちろん、上司となる立場のスタッフにも研修を受けてもらい、徹底的なハラスメント撲滅に取り組みます。
これらについては、現在も専門家を交えて検討しており、より適切な対応をしていきます。
最後に、アップリンクは社会の均質化に抗うことを標榜してきました。スタッフは皆、そこに共感してくれた人たちです。今回、提訴にあたって、原告の皆さんが実名で顔を出して会見をしたことはとても覚悟のいることだったと思います。それを深く受け止め、心に刻みます。同時に、現職のスタッフ、これまで働いてくれたスタッフの訴えに耳を貸さなかったこと、わかったつもりになって、きちんと対応しなかったことを、深く反省しています。
そして、アップリンクを応援してくださった皆様に残念な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。
会社の運営体制、職場環境を根本的に変えていくこと、そして、もう一度、皆様に応援していただけるアップリンクに生まれ変わることを、ここにお約束致します。
浅井隆
有限会社アップリンク 取締役社長
2020年6月19日
引用:アップリンク(https://www.uplink.co.jp/)
謝罪文までの経緯、さらに謝罪後の動き
冒頭で紹介したとおり、元従業員の方々から訴訟を提起されたのが2020年6月16日でした。
さらに具体的に説明すると、アップリンクの5名の元従業員が被害者の会「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment」を立ち上げ、浅井氏とアップリンクを相手取り、損害賠償を求めて東京地裁に提訴するというのが会見の内容でした。
それを受け、同日に浅井氏は公式サイトで、つぎのようなコメントを発表。
「元従業員の方々から訴訟を提起されたことに関して、真摯に受け止めております。不適切な言動があったことを深く反省し、謝罪致します。本件の解決に向けて、誠意をもって対応をして参ります。社としてもハラスメントの再発防止に努めていく所存です。改めて詳細なコメントを発表します。少々お時間をいただけますようお願い申し上げます」
そして、19日に「謝罪と今後の対応について」が発表されました。
この辺の流れは、素早かったと思いますし、誠実さも感じます。
しかし、事態は簡単に収まりそうもありません。すぐに原告側は浅井氏の声明を糾弾し、賛同人を募集するなど、「不条理な現実を変えていく」というスタンスで立ち向かっているようです。
この辺の流れは、被害者の会「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment」に定期的にアップされています。
アップリンク代表浅井隆氏から19日に発表された「謝罪と今後の対応について」を受け、本日記者会行ったとともに、声明文を発表いたします。 pic.twitter.com/V3Z5ykPqek
— UPLINK Workers’ Voices Against Harassment (@UWVAH) June 22, 2020
【再掲】【賛同人掲載】
※順不同、敬称略私たちの活動に賛同してくださる方のお名前を掲載いたします。6月28日から7月8日までの一覧です。
お名前掲載の確認が出来ていない方については、確認でき次第随時追加していきます。 pic.twitter.com/ApaCzHsivb
— UPLINK Workers’ Voices Against Harassment (@UWVAH) July 10, 2020
この辺の流れは、公式サイトにも記載されています。
被害者の会「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment」
https://uwvah2020.wixsite.com/mysite
長続きしない従業員が多いことで知られていたアップリンク
アップリンク自体は、従業員が長続きしない会社ということで知られていました。これはその世界の人の間では有名な話です。
それが映画業界自体に根ざしている問題なのか(記事後半でユジク阿佐ヶ谷を少し取り上げます)、それとも浅井氏個人の問題なのかは……なんともわかりません。部外者がアレコレと詮索しても仕方がありません。とはいえ、私の印象を少しだけ書き添えておきます。
まず、私は「UPLINK FACTORY」を何度か主催者として使わせてもらった経験があります。浅井氏と直接のやりとりは基本的にありませんでしたが、それでも名刺交換程度はしたことがあります。お会いした印象は普通の方。尖った雰囲気もなく、丁寧に接してくださった記憶しかありません。
とはいえ、天井桟敷の残党的な存在の浅井氏のことを「あいつめ!」と言っていた天井桟敷メンバーの声は私も直接聞いたことがあります。
これは単なる謝罪文紹介記事ですし、今回の記事で一方的&感情的に浅井氏を糾弾する気はありません。それ以前にそもそも事実自体も知りませんから。
とはいえ、時代は令和です。昭和のようなハードな仕事スピリッツがまかり通る時代ではありません。自戒の意識も込め、さらに現状の潜在的意識&環境改革への問いなども含めて、問題を掘り下げてみます。
映画業界全体が「やりがい搾取」に陥っている……
「やりがい搾取」という言葉を耳にするようになったのは、10年くらい前でしょうか。調べてみると、教育社会学者の本田由紀さんによって名付けられ、2007年前後から認知されるようになったとされています。
この「やりがい搾取」は、ブラック企業の精神構造の重要な柱としても使われてきています。
映画業界は以前から「やりがい搾取」の世界と指摘されてきましたし、表現系全般の仕事のほとんどは、その傾向が強かったと思います。
そして、そういった業界で走り続けるためには、ワンマン社長が従業員を叱咤激励しながら牽引するパターンが欠かせなかったと認識してます。
精神論に陥りがちな状況を改善する方法は、労働環境の改善しかありません。しかし、現実は厳しいところです。
雇用形態が不安定で、高い収入が得られにくい業界は淘汰されればいいのか?
そんなわけにはいきません。
言わずもがな、文化というものは大切なものですから。
・ ・ ・
ならばどうすればいいのでしょうか?
令和時代の求められる社長像
そのためには何と言われようが、社長は商業ベースに乗っかっていくしかないわけです。
そして稼ぐ!
稼いで「やりがい搾取」と言われない最高の労働環境を作る。最高の才能が集まる場所を作るしかないんです。
映画業界に限らず、表現全般の業界は、「めっちゃ楽しくて、めっちゃ刺激的で、普通とは違う体験ができて、お金も儲かる仕事だよ!」としていくしかないんでしょうね。
つまり令和時代のリーダーは、とにかく稼ぐってことに注力していくしかないんです。
そして、シビアに精鋭を集め、土台を固め、事業を拡げていくことしかありません。
脱!精神論しかないです!
精神論こそが「やりがい搾取」の根源です。
いかがでしょうか?
杉並のミニシアター「ユジク阿佐ヶ谷」が8月28日をもって休館
アップリンクの訴訟問題の直後、阿佐ヶ谷のミニシアター「ユジク阿佐ヶ谷」が休館を発表しました(6月23日)。
8月28日をもって休館し、営業再開は未定のようです。
公式サイトでは、つぎのようなコメントが出されています。
念のため、テキスト文字を残しておきます。
ユジク阿佐ヶ谷休館のお知らせ(2020.6.23)
日頃は、ユジク阿佐ヶ谷をご利用いただき、誠にありがとうございます。
この度、ユジク阿佐ヶ谷は、2020年8月28日(金)をもちまして、休館することを決定いたしました。営業再開の見込みは未定となっております。
急激な経営環境の変化により、運営が困難と見込まれる為、大変遺憾ではございますが、休館という措置を取った次第でございます。
2015年の開館以来、たくさんの皆様にご利用いただき、また4~5月の休業要請に伴う休館中もあたたかいご支援をいただきましたことを、改めまして心より感謝を申し上げます。
従業員一同、営業終了日まで誠心誠意を尽くして運営してまいりたいと存じます。
2020.6.23 ユジク阿佐ヶ谷
休館に伴い、会員サービスは終了となるようです。
ユジク阿佐ヶ谷誕生のきっかけと才谷遼さんの評判
ユジク阿佐ヶ谷が誕生したきっかけは、ラピュタ阿佐ヶ谷などを経営する「ふゅーじょんぷろだくと」の才谷遼さん(川邊龍雄さん)が東日本大震災をきっかけに映画 『セシウムと少女』(2015)を初監督し、上映するためでした。
「ラピュタ阿佐ヶ谷」の姉妹館という形で、座席数48席のミニシアターですが、年間約250本の映画を上映し、トークイベントなどを数多く開催してきました。支配人は武井悠生さん。そもそも「アニメーションのちいさな学校」を手伝い、『セシウムと少女』のスタッフだった流れから抜擢?されました。
アップリンク訴訟問題の前半で少し触れましたが、なぜユジク阿佐ヶ谷のことを取り上げたかというと、実質の経営は才谷遼さんが行っており、才谷さんはパワハラ訴訟で有名だからです(自殺者まで出た)。
今回のいきなりの休館は、「もしかして浅井氏に続いて訴訟される? 痛いところを突かれる?」などという部分もあって休館に踏み切ったという話もあります。
映画業界や表現業界に限ったことではありませんが、精神論をゴリ押しし、暴力や暴言に寄ったワンマン経営を行っている会社は、根絶させていかないといけないのでしょうね。。。
では!
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